東京部長倶楽部の山木のぼるです。
新しいシステムや機器を導入すると、それだけで仕事が速くなり、生産性が上がるように感じます。ところが、現場ではしばしば逆のことが起こります。入力先が一つ増えた。会議で見る画面が増えた。以前の帳票も念のため残している。データは集まるようになったのに、判断の仕方は変わらない。この状態では、技術が進んでも組織の成果はほとんど変わりません。
2017年、私は産業分野のデジタル変革を扱うイベントに参加しました。そこで強く印象に残ったのは、「機器の最適化」から「人の最適化」へ、そして「データを集めること」から「データを使って意思決定すること」へ進まなければならない、という流れでした。
機器の最適化から、人の判断へ
機械の状態をリアルタイムで見えるようにする。故障の兆候を予測する。作業予定を効率的に組み直す。これらはもちろん重要です。しかし、本当に価値が生まれるのは、その情報によって誰かの判断や行動が変わった時です。データを見ても、誰が何を決めるのか分からなければ、画面は増えても仕事は変わりません。
DXは、IT部門だけの仕事でもありません。現場の仕事を知る人、顧客を知る人、データや技術を扱う人、そして全体の目的と優先順位を決める人が一緒になって、仕事の流れをつくり直す必要があります。部門の壁を越えて情報をつなぎ、不要な作業をやめ、判断に必要な情報が必要な人へ届くようにする。そこまで行って初めて、技術が組織の力になります。
悪い流れを、そのまま自動化しない
特に見落とされやすいのが、非付加価値の仕事です。何度も同じ数字を入力する。承認を待つ。会議のために別の資料を作る。情報を探す。こうした時間は、個人の努力では解決しにくいものです。デジタル化の前に、どこで仕事が止まり、なぜ手戻りが起きているのかを明らかにしなければなりません。悪い流れをそのまま自動化すれば、悪い流れが速くなるだけです。
部長が最初に問うべきこと
部長が最初に問うべきことは、「どのシステムを入れるか」ではありません。
まず、「この取り組みによって、誰の、どの判断を、どう変えたいのか」を言葉にします。次に、現場で実際に行われている仕事を確かめ、やめる仕事、減らす仕事、標準化する仕事を分けます。そのうえで、小さな範囲で試し、結果を見て修正する。経営や部門の責任者自身も、導入を担当者任せにせず、変えるべきルールや組織の壁に向き合う必要があります。
システムの導入に合わせて、会議の開き方、承認の流れ、役割分担、情報の持ち方まで見直します。新しい道具を古い仕事の流れへ足すだけでは、現場の負担が増えるだけです。どの作業を機械に任せ、どの判断を人が担い、誰が結果に責任を持つのかを明確にする。操作方法を覚えることよりも、技術を生かして組織全体の仕事の流れをつくり直すことが、部長の役割です。
皆さんの部門で進んでいるデジタル化の取り組みを一つ思い浮かべてください。そして、「導入後、誰の判断や行動が、以前と比べてどう変わるのか」を一文で書いてみてください。はっきり書けないなら、まだ技術導入が目的になっている可能性があります。
DXの主役は機器でもソフトウェアでもありません。人と組織です。技術を使って、判断、仕事の流れ、部門間の連携、学び方を変える。そこまで設計してこそ、DXは本当の変革になります。
編集注:本記事は、2017年10月の産業DXイベントで山木が記録した自筆メモをもとに、2026年10月に一般公開用として再構成したものです。当時の企業名・製品名・登壇者の発言は掲載せず、現在にも通じる組織変革の論点として整理しています。

