東京部長倶楽部の山木のぼるです。
DXの会議では、導入時期、費用、機能が中心になりがちです。予定どおり稼働すると、プロジェクトは完了とされます。しかし、利用者の仕事が変わらず、別の部門が同じ失敗を繰り返しているなら、組織の変革はまだ始まっていません。
DXには学習の段階がある
今回のHBR論文は、DXを三つの段階からなる「デジタル学習曲線」として捉えます。既存業務を簡素化・デジタル化する段階、部門をまたぐ仕事の流れを変える段階、新しい事業や収益を生む段階です。基盤、ガバナンス、利用定着を学ばずに先へ急ぐと、技術の高度さに組織能力が追いつきません。
私は、DXは導入一割、活用九割だと考えています。技術を入れれば成果が出るのではなく、現場で使い、問題を見つけ、仕事の流れと判断を変える過程に価値があります。
実験を「成功例」で終わらせない
小さな実証実験が成功しても、担当者だけが理由を知っている状態では広がりません。何を解決したかったのか、どのデータを使ったのか、どの条件でうまくいかなかったのか、誰が何を判断したのかを残します。
成果を発表するだけでなく、前提と失敗条件を共通資産にすることが重要です。そうすれば、次の部門はゼロから始めずに済みます。
技術と一緒に仕事を変える
現状の手順をそのままデジタル化すると、不要な承認、二重入力、部門間の待ち時間も保存されます。先に、顧客や組織にとっての価値、必要な判断、役割と権限、正本となるデータを確認します。技術は、その新しい仕事の流れを支える手段として選びます。
部長はIT部門へ丸投げせず、解く課題、利用者、業務変化、成果指標を言葉にしなければなりません。一方、技術の細部まで自分で決める必要はありません。現場、専門家、IT、経営を目的に沿って接続することが役割です。
導入後の振り返りを設計する
稼働後に、何が便利になったかだけでなく、誰の判断が速くなったか、部門間の手戻りが減ったか、どんな新しい問題が見えたかを確認します。学びを次の改善へ戻せれば、DXは単発案件ではなく組織能力になります。
生成AIも学習曲線の外にはない
2023年、生成AIへの関心が急速に高まりました。しかし、個人が文章を速く作れることと、組織の判断や顧客価値が高まることは別です。利用目的、確認責任、扱うデータ、共有方法を小さく試し、学びを運用へ戻して初めて組織能力になります。
最初の一歩
進行中のDX施策を一つ選び、「解く課題」「利用者の行動変化」「得た学び」「次の案件で再利用するもの」を一枚にしてください。空欄になった項目が、導入後に組織へ残らないものです。
編集注:本稿は、HBR論文「DXを成功に導くカギは『デジタル学習曲線』にある」(東京部長倶楽部で2023年10月19日共有)を手掛かりに、論文原文を転載せず、山木の企業支援経験とDX観を中心に再構成したものです。

