東京部長倶楽部の山木のぼるです。
AIを使えば、専門外の仕事にも手が届く。そう聞いても、実際に試すまでは半信半疑の方が多いのではないでしょうか。
ある技術者は、ほとんど学習したことのないプログラミング言語を使い、AIと対話しながら業務ツールを完成させました。これは「AIなら誰でも簡単に開発できる」という話ではありません。個人の成功を、組織として再現できる力へ変えるには何が必要かを考える事例です。
AIを、コードを書く道具だけにしない
この方は、いきなりAIへ完成品を要求したわけではありません。企画構想の段階では、考えている機能が実現可能か、別の方法はないかを確認しました。設計段階では雛形を作らせ、細部を自分で確かめながら修正しました。エラーが起きた時にも、原因の候補と対処方法をAIと検討しました。
つまり、AIを使ったのは実装だけではありません。構想、実現性の検討、設計、試作、修正という一連の思考を前へ進める相手として使ったのです。
「できた」という経験が、行動範囲を広げる
未経験の言語で動くものを作れた経験は、本人にとって大きな驚きでした。専門知識が不要になったのではありません。「知らないから着手できない」という壁が低くなり、自分で仮説を形にして確かめられる範囲が広がったのです。
この自己効力感には価値があります。現場には、外部へ発注するほど大きくはないが、毎日の手間やミスを減らせる小さな改善テーマがたくさんあります。担当者が試作品を作れるようになれば、課題を説明するだけでなく、動く形を見せながら関係者と議論できます。
動いたことと、業務で使えることは別である
一方で、AIが生成したものが一度動いたからといって、組織で安全に使えるとは限りません。入力データは適切か、計算結果を誰が検証するか、例外が起きた時に誰が対応するか、担当者が異動しても保守できるかを確認する必要があります。
品質、情報管理、権限、法令、顧客への影響が関わる仕事では、最終判断と責任を人が持たなければなりません。AIは実行可能性を広げますが、目的の妥当性や許容できるリスクまで自動的に保証してくれるわけではありません。
個人差を、組織の格差にしない
AIを使う人だけが改善を進め、使わない人との間に差が広がると、便利なツールが新しい属人化を生みます。部長がすべきことは、全員へ同じ使い方を強制することではありません。
良い実践から、どの課題に使ったか、何を人が判断したか、どこで誤りが起きたか、どう検証したかを共有します。そのうえで、使ってよいデータ、レビューが必要な範囲、公開や本番利用の承認、保守責任を決めます。人の専門性、業務の仕組み、データ、AIを接続して初めて、個人の成功が組織能力になります。
最初の一歩
自部署の小さな反復業務を一つ選び、「目的」「入力」「期待する出力」「人が確認する点」「例外時の対応」「運用責任者」を一枚に書いてください。その範囲だけで試作品を作り、結果だけでなく、失敗と検証方法もチームで共有します。
AIで何が作れたかより、AIを含む仕事の流れを組織として説明できるか。それが、人とAIが成果を出す場を設計する最初の一歩です。
編集注:本記事は2025年6月の個別セッション記録をもとに、本人、勤務先、業務内容、ツール名、使用言語を特定できないよう匿名化・再構成しています。

