東京部長倶楽部の山木のぼるです。
生成AIへ問いを入れると、短時間で複数の案が返ってきます。文章や画像をつくる力も高まり、仕事のさまざまな場面へ入り始めています。便利である一方、私たちは少し気をつけなければなりません。整った答えを受け取ることが増えるほど、自分で問いを持ち、寄り道し、試し、失敗し、思いがけないものを見つける経験が減るかもしれないからです。
数学、音楽、教育など複数の分野で活動する中島さち子氏は、AI時代にも人間の創造する喜びは消えないという趣旨を語っています。私が注目したのは、人とAIの優劣ではなく、組織が人の創造する経験をどう残すかという点です。
創造性は、案の数だけではない
AIは多くの案を出せます。しかし、何を面白いと思うか、誰のために何を変えたいか、どの案に自分たちの経験を重ねるかは、人が決めます。創造性は、白紙から一人で発明する力だけではありません。異なる知識を結び、意味を見つけ、他者と形にしていく過程にもあります。
したがって、AIが案を増やすほど、部長は問いと選択の質を重視する必要があります。「もっと案を出して」だけでなく、「この問題は誰にとって重要か」「私たちにしか分からない事実は何か」「何を試せば学べるか」を問います。
効率化で、寄り道まで消さない
組織では、無駄を減らすことが求められます。ただし、すぐ成果につながらない対話、異分野の人との交流、小さな試作まで削ると、新しい発想の源がなくなります。
すべての時間を自由研究にする必要はありません。定例業務は効率化し、その一部を顧客観察、学び、実験へ戻します。AIで生まれた時間を、さらに仕事量を増やすためだけに使わず、組織の創造力へ再投資するのです。
AIの前と後に、人の仕事を置く
創造する喜びを守るには、AIを使わないのではなく、使う順番を工夫します。最初に人が問いと違和感を持ち寄る。次にAIで視点や案を広げる。その後、人が現場の事実、倫理、顧客価値、自分たちの意志で選び直す。そして小さく試し、結果を仲間と振り返る。
この循環なら、AIは人の思考を奪うのではなく、探索範囲を広げる道具になります。最終判断と責任を人が持つことも明確です。
部長は、面白がることを許可する
部下が未完成な案を出した時、すぐ費用対効果だけを尋ねれば、次から安全な提案しか出なくなります。まず、何に気づき、なぜ面白いと思ったのかを聞く。そのうえで、小さく安全に試す条件を一緒に決めます。失敗した時も、責任追及より、何が分かり、次の判断がどう変わるかを確認します。
ここでの焦点は、人とAIの役割分担を決めることだけではありません。人が創造する過程そのものを組織に残すことです。次の企画会議では、AIの答えを示す前に、参加者が「自分は何を面白いと思うか」を一つずつ話す時間をつくってみてください。
参考:日本経済新聞『〈直言〉創造する喜びは消えない 中島さち子氏 万博プロデューサー』2025年9月21日。

