東京部長倶楽部の山木のぼるです。
生成AIを使えば、文章、画像、企画案を短時間で大量につくれます。これまで専門家が時間をかけていた仕事にも、誰もが参加できるようになりました。これは大きな機会です。同時に、案をつくること自体の希少性が下がり、創造的な仕事の価値がどこにあるのかを問い直す変化でもあります。
未来を一つに決めつけない
今回取り上げるHarvard Business Reviewの論文は、生成AIが人の創造力を補い仕事を広げる可能性、機械が大量の制作物を生み人の仕事を押し流す可能性、そしてAI生成物があふれる中で人がつくったものの真正性が再評価される可能性を示しています。大切なのは、どれか一つを正解として予測することではありません。複数の未来を想定し、どの方向へ進んでも自分たちの価値を失わない準備をすることです。
「AIを導入するか、しないか」という議論だけでは足りません。導入を決めても、何を任せ、何を人が担い、どのような成果を目指すのかが曖昧なら、速く大量につくれるだけで、価値は高まりません。
人の仕事は、問いと選択へ移る
AIは、与えられた条件から多くの案を出すことが得意です。しかし、何を問題として取り上げるのか、誰にどんな価値を届けるのか、どの案を選び、何を捨てるのかは、組織の目的と現場の文脈がなければ決められません。
創造的な仕事を、課題を見つける、問いを定める、案を広げる、選ぶ、現実で試す、結果から学ぶという流れで見てください。AIは複数の工程を助けられますが、目的の意味づけ、倫理への配慮、最終判断と責任まで手放してはいけません。人とAIの境界を固定するのではなく、実績を見ながら更新することが必要です。
組織固有の知識が差を生む
誰もが同じAIを使えるなら、道具を持っているだけでは差別化になりません。差が生まれるのは、自社の顧客との対話、過去の成功と失敗、現場の専門性、判断の基準といった固有の知識です。それらが個人の頭や散在する資料に残ったままでは、AIにも仲間にも活かせません。
部長は、経験を何でもAIへ渡せばよいと考えず、再利用したい知識と、機密・個人情報・競争力の源泉として守る知識を分けます。そして、専門家が持つ暗黙知を言葉にし、他の人の視点と組み合わせられる場をつくります。AIを使うほど、人の専門性を軽く見るのではなく、どの専門性をどこで統合するかが重要になります。
導入件数ではなく、組織の創造力を見る
何人がAIを使ったか、何時間削減したかだけで成果を測ると、利用件数を増やすことが目的になります。見るべきは、問いの質が高まったか、選択肢が広がったか、判断が早く正確になったか、顧客へ新しい価値を届けられたかです。
AIで時間が生まれたなら、その時間をさらに多くの資料づくりへ使うのではなく、顧客との対話、現場での検証、チームでの熟考に戻してください。人が意味を考え、異なる専門性をつなぎ、最後に責任を持つ。AIはその力を広げるために使う。これが、人とAIで成果を出す組織の基本だと私は考えます。
最初の一歩
自部署の創造的な仕事を一つ選び、課題発見から検証までの流れを書き出してください。その中で「AIに案を増やしてもらう工程」と「人が意味を考え、責任を持つ工程」に印をつけます。境界が曖昧な部分をチームで話すことから、生成AI時代の仕事の再設計が始まります。
編集注:本稿はHBR論文の論旨を短く言い換え、山木の独自解説と組織設計論を中心に再構成しています。原文・図表・原論文の三つのシナリオの詳細構成は転載していません。

