東京部長倶楽部の山木のぼるです。
デジタル化や新しい技術の導入を任されると、私たちは新しいシステムや機器を探すところから始めがちです。しかし、技術を入れたという事実と、生産性が上がったという成果は同じではありません。2020年、複数の実務家から現場改善について話を聞き、私が強く感じたのは、成果を出している人ほど、技術の話をする前に、経営の数字と現場の仕事を丁寧につないでいたことでした。
経営指標を、現場の行動へ翻訳する
売上、利益、生産性、品質、納期。経営に必要な指標をそのまま現場へ示しても、担当者は今日の仕事をどう変えればよいか分かりません。部長には、その数字がどの工程、どの判断、どの待ち時間、どの手戻りによって動くのかを分解する役割があります。
大切なのは、数字の責任を現場へ押しつけることではありません。指標と行動のつながりを、担当者と一緒に確かめることです。「この数字を良くするには、誰のどの仕事が変わる必要があるか」「その人が変えられない制約は何か」。ここまで下りて初めて、経営目標が改善のテーマになります。
現場へ行かなければ、余力も課題も見えない
報告資料だけでは、仕事の流れの途中にある待ち、探す時間、やり直し、判断の滞りは見えません。現場で仕事をする人に話を聞き、実際の流れを追うと、設備が足りないと思っていた工程に別の制約があったり、忙しいと思っていた職場に改善へ振り向けられる余力が見つかったりします。
現場へ行く目的は、作業者を監視することではありません。資料に表れない事実と、そこで働く人の知恵を得ることです。部長が答えを持って訪れるのではなく、「どこで止まるのか」「なぜこの順番なのか」「本当は何を変えたいのか」を聞きます。
デジタル化の前に、仕事を小さく分ける
改善は、工程を分けて見ることから始まります。仕事の順序、標準となる時間、物や情報の置き場所、治具や簡単な工夫で減らせる負担を確認します。整理整頓や小さなからくりで解ける問題に、大きなシステムを入れる必要はありません。
一方、人が繰り返し転記している、判断に必要なデータが離れた場所にある、同じ異常を何度も見落とすといった問題には、デジタル技術が力を発揮します。重要なのは、技術を先に決めるのではなく、課題、期待する効果、必要な費用、現場で使い続けられる条件を比べることです。
技術は、個人の時短ではなく組織の流れへ組み込む
個別の作業を電子化するだけなら、担当者の仕事は速くなるかもしれません。しかし、その前後の確認、承認、引継ぎ、意思決定が変わらなければ、組織全体の成果は大きく変わりません。
技術を使うなら、過去の異常や改善記録を共有しやすくする、現場のデータから変化の兆候を捉える、複数の改善案と結果を比較できるようにするなど、仕事の流れの中に位置づけます。何を測り、誰が判断し、結果をどう学びへ戻すかを先に設計しておくことが大切です。
小さく試し、その日の学びを次へ戻す
改善案を完璧にしてから動く必要はありません。安全と品質を守れる範囲を決め、小さく試し、結果を見て直します。うまくいかなければ、担当者を責めるのではなく、前提、工程、技術の選び方のどこにずれがあったかを確かめます。
部長の仕事は、最も新しい技術を知っていることではありません。人、専門性、仕組み、データ、技術をつなぎ、組織として改善が続く状態をつくることです。デジタルは、その設計に必要な手段の一つです。
最初の一歩
改善したい指標を一つ選び、「その数字を動かす現場の行動」「仕事が止まる場所」「人が補っている作業」「技術を使う前に変えられること」を一行ずつ書いてください。導入するものを決める前に、解くべき課題を組織で共有することから始めましょう。
編集注:本稿は、2020年に作成した製造現場の改善・デジタル化に関する複数の実務家へのヒアリングメモをもとに、企業、拠点、人物、製品、役職、成果数値などの特定情報を用いず、2026年の東京部長倶楽部の考え方に沿って再構成したものです。

