東京部長倶楽部の山木のぼるです。
会社には、数多くの研修があります。ところが、受講直後は「勉強になった」と感じても、しばらくすると元の仕事の仕方へ戻ってしまう。立派な教材は残っているのに、現場の成果にはつながらない。そんなことは珍しくありません。
私は以前、製造現場の改善を学ぶ社内アカデミーの立ち上げに関わりました。そのプログラムは五年間で25回続き、地域や部門を越えて参加者が訪れる場になりました。しかし、最初から順調だったわけではありません。教材をつくるだけでも、ほぼ一年を要しました。世界各地の専門家の支援を受けながら、何を、どの順番で、どのように体験してもらうかを何度も組み直しました。
教材より難しかったこと
それでも、最も難しかったのは教材づくりではありませんでした。現場を含めた人々の考え方を変えることでした。
自分たちのやり方を外部の人へ見せることには、抵抗が生まれます。問題点を指摘されたくない。未完成な姿を見せたくない。成功事例だけを説明したい。そう思うのは自然なことです。しかし、それでは研修は展示会になってしまいます。
私たちが大切にしたのは、できる限りオープンに共有すること、そして参加者からの助言や疑問を謙虚に受け止めることでした。教える側が「自分たちは完成している」と考えた瞬間、学びは止まります。反対に、現場を教材として開き、外からの視点を受け入れると、研修を行うこと自体が自分たちの改善につながります。
このアカデミーが継続した最大の理由は、現場が変わり続けていたことでした。同じ場所を訪れても、前回と同じではない。新しい問題が見つかり、新しい工夫が加わり、失敗から学んだことが次の教材になる。現場そのものが「生きた学習装置」になっていたのです。
三つの循環
研修を長く機能させるには、三つの循環が必要だと私は考えます。
一つ目は、学んだことを現場で試す循環です。受講者が戻って何を実行するかまで決めなければ、知識は行動になりません。
二つ目は、現場で起きた結果を教材へ戻す循環です。成功だけでなく、うまくいかなかったことも次の学習材料にします。
三つ目は、教える側も学ぶ循環です。質問や異論を受け止め、自分たちの方法を言葉にし直すことで、暗黙知が組織の知識へ変わります。
部長は研修と仕事をつなぐ
部長の役割は、研修への参加者を決めて終わることではありません。何のために学ぶのか、現場で何を変えるのか、結果をいつ確認するのかをつなぐことです。研修担当者だけに任せず、仕事の仕組み、評価、会議、改善活動と結びつける必要があります。
皆さんの部門にも、毎年続けている研修があると思います。まず一つ選び、受講者へ「学んだことのうち、現場で何を使いましたか」と聞いてみてください。答えが曖昧なら、研修内容が悪いと決めつける前に、学習から実践へつなぐ仕組みを見直すべきです。
仕組みは、つくった時に完成するのではありません。使われ、結果が生まれ、修正され続けることで初めて価値を持ちます。研修も同じです。教材ではなく、現場と人が変化し続ける状態をつくる。その時、研修は費用ではなく、組織の学習能力になります。
編集注:本記事は、山木が立ち上げに関わった社内改善教育の25回記念に向けて2018年8月に作成した自筆インタビュー原稿をもとに、2026年10月に一般公開用として再構成したものです。企業・拠点・関係者を特定できる情報および固有の生産性数値は掲載していません。

