人手不足は、余裕を削りすぎた組織が自らつくる

人手不足は、余裕を削りすぎた組織が自らつくる

東京部長倶楽部の山木のぼるです。

 「人が足りない」「採用しても定着しない」。多くの職場で聞く言葉です。しかし、本当に採用市場だけが原因でしょうか。人件費と稼働率を極限まで絞り、欠員が一人出ただけで残業が増え、教育も改善も止まる職場を、会社自身がつくっていないでしょうか。

平常時の効率だけを見ていないか

 今回取り上げるHarvard Business Reviewの論文は、人員と時間の余裕を削り続ける運営が、かえって慢性的な人手不足を生むと指摘しています。平常時だけを見れば、少ない人数で同じ仕事を回すことは効率的です。ところが、需要の変動、病欠、品質問題、顧客からの急な依頼が重なると、待ち時間と手戻りが増えます。疲れた人から離職し、残った人の負担がさらに高まる。短期の削減が、長期の損失へ姿を変えるのです。

余裕は無駄ではなく、組織の能力である

 私は製造や組織改善の現場を長く見てきました。そこで感じるのは、余裕がなければ改善は起きないということです。目の前の仕事を終えるだけで一日が終わる職場では、なぜ問題が起きたのかを考え、標準を直し、人を育てる時間がありません。つまり、余裕は遊んでいる時間ではなく、変化へ対応し、次の問題を防ぐための能力です。

 ただし、余裕を増やせばよいという単純な話でもありません。部署によって需要の振れ幅、技能を身につける時間、代替できる人の数、仕事が止まった時の影響は異なります。部長は「何人いれば安心か」ではなく、「どの変化が起きても、何を守らなければならないか」から必要な余裕を考える必要があります。

人手不足を人数だけの問題にしない

 採用を増やす前に、残業、再作業、品質不良、納期遅延、教育の中断、離職、顧客への影響を一つの流れとして見てください。表面上は人件費を抑えていても、別の場所で大きな費用を払っているかもしれません。仕事の偏り、属人化、判断待ち、引き継ぎ不足を直すだけで、必要人数の見え方が変わることもあります。

 さらに、余裕の価値は現場との対話なしには見えません。忙しさの数字だけでなく、先送りした改善、教えられなかった仕事、断った顧客要望を聞いてください。失った機会まで見て初めて、削減の本当の代償が分かります。

 重要なのは、現場に「もっと頑張って」と求めることではありません。繁忙時に止めてよい仕事、欠員時にも守る仕事、応援に入れる人、判断を早める権限をあらかじめ決めておくことです。余裕を人の数だけでなく、技能、時間、情報、意思決定の面から設計するのです。

AIで生まれた時間を、再び埋めない

 生成AIや自動化によって作業時間が短くなった時、空いた時間をすぐ別の仕事で埋めれば、組織は忙しいままです。その一部を、教育、標準化、原因分析、顧客との対話に戻してください。AIは人をさらに追い込む道具ではなく、人と組織が学ぶ余地をつくるために使うべきです。

 部長が見るべきなのは、稼働率の高さだけではありません。変化への対応速度、改善の数、育成の進み方、離職や手戻りの減少まで含めて、組織として成果が出る状態を見ます。余裕がどの成果につながったかを記録できれば、次の削減局面でも、その価値を説明できます。

最初の一歩

 今週、自部署で「一人休むと止まる仕事」を一つ挙げてください。そして、止まる理由を人手不足で終わらせず、技能、情報、権限、手順のどこに余裕がないのかを書き出してみましょう。そこが、強い組織へ変える最初の設計点です。

編集注:本稿はHBR論文の論旨を短く言い換え、山木の経験と独自の組織設計論を中心に再構成しています。原文・図表・原論文の列挙構成は転載していません。

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