東京部長倶楽部の山木のぼるです。
成果を出した部署ほど、ノウハウを手放したくないものです。「自分たちの強みが薄れる」「教える余裕がない」「相手とは事情が違う」と考えます。
しかし、同じ会社の別部署が同じ失敗を繰り返しているなら、囲い込んだ知識は自部署の優位性を守っているのではなく、全社の損失を増やしています。部長の視座は、自部署だけが勝つことから、会社全体が強くなることへ上がる必要があります。
共有は、資料を置くことではない
ノウハウ共有というと、報告会を開き、手順書を共有フォルダへ置くことを思い浮かべます。しかし、成功結果だけを見せても、他部署は再現できません。
何を目的にしたのか。どんな顧客、業務量、能力、設備、組織文化を前提にしたのか。どの順番で進め、どこで失敗し、何を修正したのか。どんな条件では使えないのか。そこまで伝えて初めて、他者が使えるノウハウになります。
自部署の成功から、会社全体の成功へ
私が製造拠点を預かっていた時、自分たちの生産性を高めるだけでは、企業全体への貢献に限界があると気づきました。一つの拠点が大きく改善する以上に、複数の拠点が少しずつ改善すれば、全体への効果は大きくなります。
他拠点は「最強」を競う相手ではなく、外の競合に一緒に勝つ仲間です。他拠点が成功すれば、自分たちの成功でもある。そう考えた時、ノウハウを囲い込む理由はなくなりました。
失敗と適用限界を隠さない
共有資料は成功談として美しく整えられがちです。しかし、失敗や例外を隠すと、受け手は同じ落とし穴にはまります。
うまくいかなかった試行、途中で変えた判断、想定以上に必要だった支援、その方法を使ってはいけない条件を伝えます。自部署をよく見せることより、相手の成功確率を高めることを優先します。
共有する側も、さらに学ぶ
人へ説明しようとすると、自分たちが暗黙に行っていた判断が言葉になります。質問を受ければ、「なぜこの順番なのか」「条件が違っても成り立つのか」を考え直します。
さらに、他部署が使って改良した結果を戻してくれれば、元の部署も学べます。共有は知識を失う行為ではなく、知識の再現性を高め、次の知識を生む行為です。
共有した後の「活用」までを見る
資料を渡した時点を完了にすると、知識は使われません。受け手がどの業務へ適用し、何に困り、どこを変えたかを確認します。説明会の回数やダウンロード数ではなく、再利用によって時間、品質、顧客価値がどう変わったかを見ます。
条件が異なる部署へ同じ手順を押しつけるのも共有ではありません。変えてはいけない原則と、現地で変えてよい部分を分けます。受け手が自分たちの状況に合わせて試し、その結果を戻すことで、知識は一方向の展開から組織の学習循環へ変わります。
共有した人を評価する
自部署だけの数字で部長を評価すれば、知識を囲い込む方が合理的になります。他部署の立ち上げを支援した、失敗を開示して損失を防いだ、共通の標準をつくったといった貢献も評価する必要があります。
共有を善意と余力だけに頼らず、時間と役割を正式に与えることも大切です。全社最適を求めながら、自部署の短期成果しか見ない評価制度では、知識は流れません。
守るべき情報との境界を引く
「全部シェアする」とは、顧客情報、個人情報、知的財産、契約上の秘密まで無制限に公開することではありません。目的と権限に応じて守るべき情報を守りながら、部門の面子や優位性だけを理由に、組織成果に必要な知識を閉じないという意味です。
最初の一歩
他部署でも役立つノウハウを一つ選び、「目的・前提条件・手順・失敗・適用限界・相談先」の六項目で一枚にしてください。共有後は、相手がどう使い、何を変えたかを聞き、その学びを元の資料へ戻します。
編集注:本稿は、山木の製造組織での経験と、東京部長倶楽部の会員向け講義をもとに、企業や拠点が特定されない形で一般向けに再構成したものです。

