東京部長倶楽部の山木のぼるです。
好業績が出たとき、部長はどのように反応するでしょうか。「よくやった」と褒め、表彰し、次の目標を渡す。それだけでは、せっかくの成功が一人の経験のまま終わってしまいます。
今回は、久しぶりの予算達成をきっかけに、部下の大型契約から成功要因を学ぼうとした営業組織の事例をご紹介します。
予算達成の裏に、部下の大型契約があった
ある営業組織で、久しぶりに月次予算を達成しました。詳しく見ると、既存のお客様への追加提案から生まれた大型契約が、達成に大きく寄与していました。
ここで大切なのは、「大きな案件が取れてよかった」で終わらせなかったことです。リーダーは、その部下に、いつ頃から、誰と、どのような話をし、どの時点で追加提案の可能性に気づいたのかを聞こうとしました。
数字は結果を示しますが、次の結果を生む方法までは教えてくれません。予算達成の裏側へ戻り、行動と判断の流れを確かめて初めて、組織が学べる材料になります。
成功を「本人の能力」で片づけない
優秀な人が成果を出すと、「あの人だからできた」と説明しがちです。しかし、それでは他の人が学ぶ余地を失います。
既存のお客様のどの変化に気づいたのか。どんな問いを投げかけたのか。相手の条件や時期をどう見極めたのか。最初の提案に、何を追加したのか。こうした具体的な行動へ分解すると、他の担当者が試せる部分が見えてきます。
一方で、一件の成功から万能な公式を作ってはいけません。顧客との関係、提案時期、担当者の経験など、今回だけの条件もあります。再現できそうな行動と、偶然や固有条件を分けることが必要です。
本人の言葉で、成功の過程を語ってもらう
上司が先に「成功要因はこれだ」と決めると、実際の工夫を見落とします。聞き取りでは、本人が見た事実と判断を、時間の順に話してもらいます。
「いつ変化に気づいたか」「そのとき何を聞いたか」「どの反応を見て提案を変えたか」「迷った場面で何を基準に決めたか」と尋ねます。成功者を詰問するのではなく、本人も無意識だった工夫を一緒に見つける対話です。
うまくいかなかったことも聞いてください。成功談だけをきれいに整えると、他の人が同じ失敗を避けるための知識が失われます。
共有して、試して、更新する
聞き取った内容は、長い報告書にする必要はありません。「状況」「着眼点」「行動」「相手の反応」「次に試すこと」の五項目で一枚にまとめれば十分です。
次に、似た案件を持つ別の担当者が一つだけ試します。同じ結果になるか、条件が違うと何が変わるかを確認し、内容を更新します。成功要因は、保存しただけでは組織の力になりません。別の人が使い、検証し、改善して初めて仕組みになります。
部長の役割は、個人の成功を組織能力へ変えること
大型契約を取った本人を正しく評価することは大切です。しかし、本人の成果を横取りせず、その経験から組織全体が学べるようにすることも、部長の重要な仕事です。
成功者には、経験を教える機会が生まれます。周囲には、成果へ至る具体的な道筋が見えます。組織には、次の挑戦で使える知識が残ります。これが、一件の成果を次の成果へつなげるということです。
最初の一歩
直近でうまくいった案件を一つ選び、担当者に「いつ気づいたか」「何を見聞きしたか」「どの判断が転機だったか」「次も使えることは何か」の四つを聞いてください。
答えを一枚にまとめ、別の案件で一項目だけ試します。成功を称える場を、組織が学ぶ場へ変えることが最初の一歩です。
編集注:本記事は2021年の個別セッション記録をもとに、本人、勤務先、顧客、商品・契約規模を特定できないよう匿名化・再構成しています。予算達成と大型契約は確認済みですが、その後に再現可能な仕組みが完成したことを示すものではありません。

