東京部長倶楽部の山木のぼるです。
部下の表情が曇り、動きが鈍くなると、上司は「もっと声を掛けよう」「目標の意義を熱く語ろう」と考えます。励ましが必要な場面はあります。しかし、一時的に気分が上がっても、仕事の条件が同じなら、状態はやがて元へ戻ります。
モチベーションを本人の性格や気合の問題だけにすると、部長が変えられるはずの役割、仕事の進め方、支援、成長機会が見えなくなります。
人の気分を操作しようとしない
部長の仕事は、部下をいつも明るく前向きな状態にすることではありません。組織の成果に必要な仕事と、本人の力が出る条件をつなぐことです。
会社には「やるべきこと」と、現在の人材や仕組みで「やれること」があります。個人には「やりたいこと」があります。三つが完全に重なる仕事ばかりではありません。それでも、対話を通じて、本人が力を出せる理由、方法、役割、成長機会を組み替えることはできます。
「やりたいことがない」と決めつけない
全員が明確なキャリア目標を持っているわけではありません。しかし、複雑な課題を解く時に集中できる、誰かに感謝されると力が出る、新しい仕事より安定運用を極めたいなど、仕事へのエネルギーが生まれる条件はあります。
「将来、何になりたいか」だけでなく、「最近、どんな仕事が面白かったか」「どんな時に力を出しやすかったか」「何が続くと消耗するか」を聞きます。本人も気づいていなかった条件が見えてきます。
同じ目標でも、挑戦は変えられる
売上、品質、納期など、組織の目標が毎年大きく変わらないことはあります。だからといって、同じ仕事を繰り返す必要はありません。
達成する理由、取り組む方法、習得するスキル、任せる範囲、他部署との接点を変えれば、同じ数字も別の挑戦になります。部長は目標を割り当てるだけでなく、仕事の中に成長の違いをつくります。
未達の年にも、次の力を残す
数値目標が未達だからといって、一年間の価値がゼロになるわけではありません。新しい専門性、改善した仕組み、他部門との関係、深まった顧客理解、次の成功確率がどう変わったかを、事実で確認します。
結果を美化するのではありません。未達の原因を明らかにしながら、何が組織に残ったかを確かめることで、次の行動へつながる達成感をつくります。
希望をすべてかなえることと、全員に向き合うことは違う
会社の仕事には制約があり、希望する配置や機会を全員へ同時に渡せるわけではありません。それでも、何を期待し、なぜ今この役割なのか、どんな成長の可能性があるかを説明できます。
本人の希望と完全に一致しない時にも、選べる部分を一緒に探す。納得できないことを無理に納得させるのではなく、事実と制約を共有したうえで主体性の余地を増やします。
個人だけでなく、仕事の摩擦を見る
同じ人でも、仕事の進め方が変われば状態は変わります。二重入力、承認待ち、曖昧な役割、頻繁な優先順位変更、情報を探す時間が積み重なれば、意欲がある人も消耗します。「最近やる気がない」と評価する前に、本人の努力を削っている仕事上の摩擦を確かめます。
摩擦を一つ減らすことは、派手な表彰やイベントより地味です。しかし、毎日繰り返される負担がなくなれば、本人は本来の仕事へ力を使えます。モチベーション施策と業務改善を別々に扱わないことが重要です。
部長は、課長が人を見られる状態をつくる
部長がすべてのメンバーを直接観察することはできません。直属の上司が変化に気づき、必要な支援へつなげられるよう、1on1の目的、相談経路、支援に使える選択肢を整えます。部長は個人の気持ちを一人で背負うのではなく、人を見て支える管理の仕組みをつくります。
最初の一歩
一人の部下を思い浮かべ、「力が出た仕事」「力を失った条件」「次に試す役割や支援」を三列に書いてください。推測で決めず、本人との対話で確かめ、小さな変更を一つ試します。
編集注:本稿は、東京部長倶楽部の会員向け講義「モチベーション」を一般読者向けに再構成したものです。

