東京部長倶楽部の山木のぼるです。
「経営が現場を分かっていない」「現場は全社を見ていない」。組織では、どちらの言葉もよく聞きます。そして、トップダウンを強めるべきか、ボトムアップへ変えるべきか、という議論になりがちです。
しかし、本当の問題は、どちらを選ぶかではありません。上から下へ方針が下り、下から上へ現場の事実が戻る。その往復がつながっていないことです。
トップダウンが渡すべきもの
トップダウンは、命令を細かく増やすことではありません。経営や上位者が、実現したい目的、優先順位、動かせない制約、最終責任を明確にすることです。
ここが曖昧なまま「現場で自由に考えて」と言えば、ボトムアップではなく丸投げになります。現場は、何を守り、何を変えてよいのかを推測しなければなりません。同じ会社の中で別々の答えが生まれ、後からやり直しが増えます。
ボトムアップが戻すべきもの
ボトムアップは、意見募集や不満の吸い上げだけではありません。顧客や現場で起きている事実、実行上の障害、専門知、考えられる選択肢を、意思決定の材料として上へ戻すことです。
「この方針は無理です」で終わらせず、「この事実があり、この影響が予想され、選択肢は三つあり、私たちはこれを勧める」と返します。上からの方針に反対するためではなく、目的をよりよく実現するためです。
部長は、上下どちらかの代弁者ではない
部長は、現場に対して経営の言葉をそのまま読み上げる人でも、経営に対して現場の不満をそのまま運ぶ人でもありません。
現場には、全社の目的と制約を、自部署の役割、優先順位、やめる仕事、今週の行動へ翻訳します。経営には、現場の事実と実行可能性を、影響と選択肢を添えて伝えます。どちらかへ迎合するのではなく、意思決定の質と実行の質を同時に上げるのです。
往復には、期限と場が必要である
年度初めに方針を下ろし、年度末に結果を集めるだけでは、修正が遅すぎます。月次や四半期で、進捗だけでなく、前提の変化、顧客の反応、実行上の障害、現場からの提案を確認します。
上位者は、その事実を受けて方針を変えることも、変えない理由を説明することもできます。往復する場と周期が決まって初めて、トップダウンとボトムアップは一つの経営プロセスになります。
最後に決める人を曖昧にしない
現場の意見を聞くことと、全員の同意が得られるまで決めないことは違います。ボトムアップで多様な事実と案を集めても、期限までに誰かが選択し、結果の責任を引き受けなければ組織は動きません。
部長は、どこまで現場が決め、どこから自分が決め、何を上位者へ上げるかを先に示します。採用しなかった提案にも、目的や制約に照らした理由を返します。意見が通らなかったことより、聞かれたのに何も説明されないことの方が、次の提案を止めます。
現場の言葉を、会議で終わらせない
ヒアリングや意見交換を行っても、決定と行動へつながらなければ「聞くふり」になります。提案を受けたら、採用する、追加検証する、今回は扱わない、のいずれかを明らかにし、次に確認する日を決めます。ボトムアップの価値は、集めた声の数ではなく、意思決定がどれだけ良くなったかで測ります。
悪い情報を上げた人を責めない
往復を機能させるには、方針の問題を示す事実が出ても、早く報告した人を責めないことが欠かせません。悪い事実が早く届くことは、修正の機会です。情報を隠す方が安全な組織では、どんな制度を設けてもボトムアップは起きません。
最初の一歩
いま動いている重要方針を一つ選びます。左側に、上から下へ渡すべき「目的・優先順位・制約」を、右側に、下から上へ戻すべき「事実・影響・選択肢」を書いてください。空欄になった部分が、現在の意思決定回路が片道になっている場所です。
編集注:本稿は、東京部長倶楽部の会員向け講義「トップダウンとボトムアップ」を一般読者向けに再構成したものです。

