東京部長倶楽部の山木のぼるです。
「何度も説明したのに、なぜ現場は動かないのか」。部長が抱きやすい不満です。しかし、説明したことと、相手が自分の仕事の判断に使えることは別です。
経営方針をそのまま読み上げ、売上や生産性の大きな数字を示しても、メンバーが今日の仕事で何を変えるか分からなければ、情報は届いても意味は伝わっていません。
コミュニケーションは戦略実行の仕事である
今回のHBR論文は、リーダーのコミュニケーションを付属的なソフトスキルではなく、戦略を実行するための中核能力として扱っています。
複雑な話を簡潔にする。比喩で記憶に残す。大きな数字を人が理解できる尺度へ変える。組織の目的を異なる方法で繰り返し語る。これらは、話を美しく見せるためではありません。方針を現場の判断と行動へ変えるためです。
まず、一文で言えるところまで考える
長い説明を短くすることは、内容を薄くすることではありません。何を最も伝えたいのかを決めることです。
「顧客中心で改革する」「生産性を向上する」といった抽象語だけでは、判断基準になりません。「顧客の待ち時間を減らすため、社内の引き継ぎを一回減らす」のように、誰にどの変化を生むのかまで一文にします。
一文にできない場合、部長自身の中で目的と手段が整理されていない可能性があります。説明資料を増やす前に、何を選び、何をやめる方針なのかを明確にします。
数字を、人の行動が見える大きさへ変える
年間の売上、生産性、コスト削減額は重要です。しかし、大きな数字だけでは、自分の仕事との距離が遠すぎます。
一人当たり、一日当たり、一件当たりへ置き換えると、どの行動を変えるべきかが見えてきます。例えば「年間一万時間削減」ではなく、「一人一日十数分の確認作業をなくす」と表せば、現場で探す対象が変わります。
数字を小さく見せるのではありません。大局の数字を小局の行動へ翻訳するのです。
事実だけでも、物語だけでも足りない
事実とデータは、方針への納得を支えます。一方、顧客や現場で何が起きているかを具体的に語る物語は、仕事の意味を伝えます。
事実だけでは冷たい指示になり、物語だけでは根拠の薄い精神論になることがあります。両方を組み合わせ、「なぜ必要か」「誰のためか」「何を変えるか」をつなぎます。
一度伝えて終わらない
重要な方針ほど、会議で一度話しただけでは浸透しません。全体会議、一対一、文書、現場での判断など、異なる場面で同じ意味を繰り返します。
ただし、同じ言葉を何度も唱えるだけでは不十分です。全体会議では目的を示し、一対一では本人の役割へ落とし、文書では判断基準を残し、実案件では選択を一緒に考えます。
方針が変わった時には、変更内容だけでなく、なぜ変えたのかも説明します。そうしなければ、繰り返しは一貫性ではなく、前言撤回に見えてしまいます。
理解は、相手の言葉と行動で確かめる
「分かりましたか」と聞けば、多くの人は「分かりました」と答えます。復唱できても、判断に使えるとは限りません。
「あなたの仕事では何を変えますか」「この案件では何を選び、何を断りますか」と尋ね、相手の言葉で説明してもらいます。違いがあれば、相手の理解不足と決めつけず、自分の説明のどこが曖昧だったかを見直します。
コミュニケーションの成果は、話した回数ではなく、その後の判断と行動が変わったかで測ります。伝えることも、結果から学び直す仕事です。
最初の一歩
現在の重要方針を一つ選び、一文で書いてください。次に抽象語を具体例へ、大きな数字を一人・一日・一件の行動へ置き換えます。部下一人に説明した後、「あなたの仕事では何を変えますか」と尋ね、返ってきた言葉から説明を修正しましょう。
編集注:本稿は、HBR論文「世界のトップリーダーが実践している4つのコミュニケーション戦略」を手掛かりに、論文原文を転載せず、部長の言葉を現場の判断と行動へ翻訳する観点から再構成したものです。

