東京部長倶楽部の山木のぼるです。
売上、シェア、競合情報は、本社の画面からでも確認できます。製品説明や商談もオンラインでできます。それでも、現地へ足を運んだからこそ仕事が動く場面があります。理由は、訪問で得られる情報量が多いからだけではありません。本社の方針を現地の課題へ翻訳し、現地の事実を本社の判断へ戻す「接続」が生まれるからです。
現地へ行くと、数か月後に売上が動いた
私は医療機器事業のグローバル・マーケティングを担当し、各国の営業や販売会社を訪ねていました。製品の資料、画像、販売のポイントは、訪問前にも各地域へ渡していました。電話会議でも説明していました。
ところが、現地で担当者と一日かけて議論すると、三か月から半年ほど後に、その地域の売上が伸びることがありました。訪問した場で性能や価格を変えたわけではありません。変わったのは、現地の人が製品の価値を理解し、自分たちの顧客へ自分の言葉で語れるようになったことでした。
資料の内容より、背景と意味が人を動かす
五十ページの資料があっても、すべてのページが同じ重さではありません。なぜこの機能をつくったのか、どの顧客の困りごとから生まれたのか、競合と比べて何を正直に伝えるべきか。開発の背景や判断の理由まで話すと、現地の担当者は「この顧客には、こう説明できる」と考え始めます。
同時に、現地からは、本社の説明が通じない理由、顧客が本当に気にしていること、競合に負ける条件が返ってきます。本社が一方的に教えるのではなく、現地と一緒に売れる理由をつくる。その対話が、次の営業行動と製品改善の両方につながりました。
現場訪問は、視察でも監視でもない
部長が現場へ行っても、予定どおりに工程を見て、数字を確認し、質問して帰るだけなら、報告会を移動させただけです。訪問前に「何を確かめたいか」「どの前提が間違っているかもしれないか」を持ち、現場では予定外の事実を探します。
訪問後に決めるべきなのは、誰の何の判断を変えるかです。本社の方針を現場が動ける言葉へ変える。現場の困りごとを上位の判断へ戻す。部門間で止まっている情報をつなぐ。行ったことではなく、判断と行動が変わったことを成果にします。
対面の時間は、資料にないものへ使う
オンライン会議やデータベースがあれば、事前の情報収集は速くできます。だからこそ、実際に会う時間を、資料に書かれた内容の再確認だけに使ってはいけません。言葉になっていない不安、過去の経緯、利害の違い、相手が本気になれない理由を理解するために使います。
本社の人間が現地へ来て話を聞くこと自体も、「私たちの市場を大切にしている」というメッセージになります。ただし、来訪への好感だけでは売上は続きません。聞いた内容を本社へ持ち帰り、回答や支援を返し、三か月後、半年後に何が変わったかを確かめて、初めて信頼が積み上がります。
国境がなくても、同じ接続は必要になる
訪問先は海外でなくても構いません。営業部門から開発部門へ、工場から本社へ、管理部門から事業部門へ足を運ぶ時も原理は同じです。相手の仕事を見て、上位方針を相手の言葉へ翻訳し、現場の事実を自部署の判断へ戻します。部長の現場訪問とは、情報を集める仕事ではなく、離れている判断をつなぎ直す仕事です。
最初の一歩
次の現場訪問について、訪問前の仮説、現地で確かめたい想定外、訪問後に変えたい判断を一つずつ書いてください。帰った後は、相手へ何を返すかと、三か月後に確認する変化まで予定に入れましょう。
編集注:本稿は山木本人の経験と確認済みのセッション記録をもとに、勤務先・製品・地域・顧客を特定する情報を一般化して再構成しています。

