東京部長倶楽部の山木のぼるです。
海外で急成長した製品やサービスを見ると、「日本にも大きな市場がある。持ってくれば売れるはずだ」と考えたくなります。しかし、同じ技術、同じ機能、同じ価格を用意しても、期待どおりに広がらないことがあります。成功モデルは、国境を越えた瞬間に自動的に再現されるものではありません。
市場規模だけでは、需要は分からない
2019年、海外で伸びていたオンライン受託製造サービスが、なぜ日本では同じように伸びないのかを検討する機会がありました。設計データを送ると見積もりが出て、試作品や少量品を短期間で調達できる。仕組みだけを見れば、製造業の厚い日本にも十分な需要がありそうです。
ところが、「製造業が大きい」「企業数が多い」という数字は、利用の必然性を示しません。誰が、どの場面で、何に困り、そのサービスへいくら払うのか。そこまで見なければ、市場は存在しているように見えても、顧客は動きません。
サービスを支える「周辺条件」を読む
海外での成功には、サービス本体だけでなく、周辺の条件が関係します。新しい製品を短期間で試す企業が多いか。試作費を素早く決裁できるか。外部の製造ネットワークを使うことへの抵抗は小さいか。知的財産や品質への不安をどう処理しているか。価格よりスピードを優先する場面がどれだけあるか。
日本では、既存の取引先との関係、品質保証の手順、社内決裁、設計データの扱い、少量発注の商習慣が異なることがあります。それらを「日本企業は保守的だ」の一言で片づけてはいけません。顧客が合理的に動かないのではなく、現在の仕組みの中では、切り替えない方が合理的なのかもしれないからです。
成功モデルを翻訳する五つの視点
第一は利用者です。実際に困っているのは設計者、購買担当者、事業責任者の誰でしょうか。
第二は利用場面です。通常の量産ではなく、急な試作、市場テスト、補修部品など、価値が最も高まる瞬間を特定します。
第三は代替手段です。顧客はいま何で問題を解いており、そこにはどの程度の不満と切替費用があるでしょうか。
第四は経済性です。単価だけでなく、納期短縮、在庫、手戻り、機会損失まで含めて比べます。
第五は組織条件です。誰が決め、誰がリスクを負い、どのデータや承認が必要かを確認します。
技術導入ではなく、仕事の流れを変える
自動見積もり、設計データの標準化、複数企業をつなぐネットワークは強力です。しかし、従来の承認や二重入力を残したまま新しい仕組みを足せば、仕事が増えるだけです。価値を生むには、依頼、見積もり、発注、品質確認、納品までの流れと役割を一緒に見直さなければなりません。
部長に必要なのは、海外モデルを礼賛することでも、日本では無理だと退けることでもありません。成立条件を分解し、自社の顧客と組織に合わせて組み直し、小さく確かめることです。
最初の一歩
導入を検討している海外のサービスを一つ選び、「誰が使うか」「どの瞬間に価値が出るか」「現在の代替手段は何か」「誰が決裁するか」「切り替えを妨げる条件は何か」を一行ずつ書いてください。機能比較では見えなかった、本当の導入課題が見えてきます。
編集注:本稿は、2019年に行った海外のオンライン製造サービスと日本市場に関する調査・仮説メモをもとに、企業名、依頼者、非公開情報を除き、2026年に一般的な事業開発・DXの実践知として再構成しました。当時の市場数値を現在の事実として用いず、第三者記事の文章・図表も転載していません。

