東京部長倶楽部の山木のぼるです。
進路や異動先を選ぶとき、私たちは会社名、職位、年収、勤務地など、比べやすい条件に目を向けます。条件は大切です。しかし、それだけで決めると、そこで働く人の空気、任される仕事の幅、自分が組織へ与えられる影響といった、長く働くうえで重要なものを見落とします。
三十を超える現場を自分の目で見た
私は大学院生の頃、就職先を考えるために、製鉄所、半導体工場、研究所など三十を超える現場を見て回りました。会社案内を読むだけでなく、実際の設備、働く人、職場の雰囲気を自分で確かめたかったからです。当時は「外資系は選ばない」「大きく安定した会社がよい」といった判断軸も持っていました。
ところが、最後に訪ねた創業間もない医療機器会社で、その軸が揺らぎました。見学できる設備は多くなく、会社としてもまだ発展途上でした。しかし、社員との距離が近く、自由な空気があり、自分が加わることで仕事や会社の形を変えられそうな余白を感じました。条件表だけなら、もっと整った選択肢がありました。それでも私は、その会社を就職先に選びました。
判断軸は、候補を切るためだけのものではない
正解のない選択には、自分なりの判断軸が必要です。軸がなければ、印象や周囲の評判だけで決めることになります。一方、事前に作った軸を絶対視すると、まだ知らない可能性を閉じてしまいます。
私が選んだ会社は、その後、世界的企業の一員となりました。私は設計だけでなく、全社改善、マーケティング、購買、工場運営など、入社時には想像していなかった経験を得ました。「大きな組織は避けたい」という最初の軸だけで候補から外していたら、その道はありませんでした。判断軸は結論を固定するためではなく、現場で見た事実によって更新するためにあります。
部長の人材配置にも同じことが起きる
この話は就職活動に限りません。部長が人を配置するときも、学歴、職歴、現在の役職、過去の評価といった見やすい情報に引っ張られます。「この人には管理職は難しい」「この人は専門職向きだ」と早く決めれば、本人にも組織にもあったかもしれない可能性を失います。
資料は候補を整理するために使い、現場は自分の前提を確かめるために見ます。本人と話し、小さな仕事を任せ、他者との関わり方を観察する。想定と違う反応があれば、本人を切る前に、自分の見方が古くなっていないかを問い直します。人材配置、新規事業、提携先選びでも原理は同じです。
見学を「良かった、悪かった」で終わらせない
現場を見る前に、「何を大切にしたいか」「何を確かめたいか」を書いておきます。見た後は、事実、そこからの解釈、次に確かめることを分けて記録します。同行者と話せば、自分とは違う着眼点にも気づけます。
現場へ行けば必ず正解が見つかるわけではありません。それでも、資料だけで作った思い込みを壊し、選択肢を現実に照らして考え直すことはできます。部長に必要なのは、最初から正しい軸を持つことではなく、事実に触れて軸を更新できることです。
条件の良し悪しを比べるだけでなく、「ここで自分は何を学び、誰にどんな価値を出せるか」を考えると、選択は受け身の比較から、自分が未来をつくる判断へ変わります。
最初の一歩
今、名前や過去の印象だけで外している選択肢を一つ挙げてください。自分の判断軸を三つ書いたうえで、今月中に現場を見る、本人と話す、小さく試す、のいずれかを決めましょう。
編集注:本稿は山木本人の経験と確認済みのセッション記録をもとに、勤務先や関係者を特定する情報を一般化して再構成しています。

