東京部長倶楽部の山木のぼるです。
「課長になりたい」と上司に伝えることに、ためらいを感じる人は少なくありません。自分から昇進を希望すると、肩書や待遇だけを求めているように見えるのではないか。黙って実績を積み、会社が評価してくれるのを待つ方がよいのではないか。そんな迷いです。
まず、意思を正式な場で言葉にする
ある受講者との個別セッションで、社内の定期的な自己申告が話題になりました。その方は課長を目指していましたが、これまで希望を明確に伝えたことはありませんでした。
私は、課長になりたいという意思を隠す必要はないと伝えました。本人が何を目指しているのかは、言葉にしなければ会社や上司には伝わりません。実績を積むことはもちろん大切ですが、組織が本人の将来像まで正確に推測してくれるとは限らないからです。
ただし、「課長になりたい」と書くだけでは不十分です。そこで次に考えたのが、「なぜ課長になりたいのか」という問いでした。
「役職を得たい」から「役職で実現したい」へ
対話を重ねる中で、自己申告に記す内容は、単なる昇進希望から変わっていきました。課長という立場を通じて、周囲の人が持つ力をもっと発揮できる環境をつくり、それを組織の成果へつなげたい。その趣旨が伝わる表現へと整えていったのです。
変わったのは、文章の言い回しだけではありません。視点が「自分が役職を得ること」から、「その役職を使って誰の力を引き出し、組織にどのような価値を生むか」へ移りました。
会社が管理職を任命するのは、本人の希望をかなえるためではありません。一定の権限と責任を預け、人と仕事を動かし、組織としてより大きな成果を生み出してもらうためです。したがって、昇進を希望するときには、自分が得たいものだけでなく、会社や組織へ何を返すのかまで示す必要があります。
昇進前から役割を先取りする
さらに大切なのは、課長になってから始めるのではないことです。権限がなければできない仕事はありますが、周囲を支援する、部署全体の課題を拾う、仕事の進め方を改善する、メンバーの力が発揮されるよう働きかけることは、現在の立場でも始められます。
目指す役職の視点で先に行動すれば、自己申告の言葉に実態が伴います。「任命されたらやります」ではなく、「すでにその方向へ動いており、より大きな責任を引き受けたい」と示すことになります。
約7か月後に決まった課長昇進
自己申告で意思と理由を伝えてから約7か月後、その方の課長昇進が決まり、翌月から新しい役割を担うことになりました。
もちろん、一つの文章を書いたことだけで昇進が決まった、と結論づけることはできません。昇進には、それまでの実績、能力、周囲からの評価、組織の人員計画、ポストの状況、選考の時期など、多くの要素が関係します。
それでも、本人が目指す役割と、その立場で実現したい組織の姿を明確にしたことには意味があります。上司や会社が、本人の意思だけでなく、管理職として何を任せられるかを評価できる状態をつくったからです。
何がキーだったのか――三つの転換
第一は、待つ姿勢から、正式な機会を使って意思を伝える姿勢への転換です。希望の表明は、権利の要求ではなく、その役割を引き受ける意思と覚悟を示す行為でもあります。
第二は、「自分が昇進したい」という個人の希望を、「誰の力をどう引き出し、組織に何をもたらすか」という組織への約束へ翻訳したことです。
第三は、言葉だけで終わらせず、目指す役職の仕事を可能な範囲で先取りしたことです。言葉と日々の行動が一致して、初めて昇進希望に説得力が生まれます。
昇進を考える人への四つの問い
- なぜ、その役職を担いたいのでしょうか。
- その役職に就いたら、組織をどのような状態にしたいのでしょうか。
- 誰の力を、どのように引き出したいのでしょうか。
- その構想に向けて、現在すでに始めている行動は何でしょうか。
「私は課長になりたい」という言葉は、出発点として正直で大切です。しかし、会社が本当に知りたいのは、その先です。役職を得た自分ではなく、役職を通じて変わる組織を語る。その視点の転換が、管理職を目指す人の言葉と行動を一段深くします。
最初の一歩
紙を二つに分け、左に「自分が役職を通じて得たいもの」、右に「その役職を通じて組織に生む価値」を書いてください。次に右側を、現場の課題、つくりたい状態、組織成果の順で一文にします。最後に、その一文を裏づける行動を今週一つ始めましょう。
編集注:本稿は実際の個別セッションをもとに、本人と勤務先が特定されないよう固有名詞、制度の詳細、発言表現を変更して再構成しています。昇進は実績、評価、組織事情など複数の要因によって決まるものであり、自己申告だけの効果を示すものではありません。

