東京部長倶楽部の山木のぼるです。
Excelを使えることと、数字で事業を理解できることは同じではありません。複雑な関数や見栄えのよいグラフを作れても、表のどの数字を自分たちが動かせるのか、その変化がどの結果につながるのかを説明できなければ、意思決定には使えません。2020年、事業の数字を学ぶ人への支援を考えた時、私が最初に置いたのは操作方法ではなく、「入力と出力を分ける」という考え方でした。
Excelの上手さと、事業の理解は別である
表計算を学ぶと聞くと、関数、書式、グラフの作り方から始めたくなります。しかし、管理職に必要なのは、表を速く作る技能だけではありません。何を前提として置き、何が計算の結果として現れ、その数字を見て何を決めるのかを理解することです。
売上や利益の表を受け取っても、数字の意味が分からなければ、前年との差を眺めて終わります。反対に、構造が分かれば、高度な操作を知らなくても、「この前提が変わると結果はどうなるか」「どこに働きかければよいか」という対話ができます。
まず、入力と出力を切り分ける
入力とは、自分たちが置いた前提や、仕事の結果として取り込む事実です。顧客数、単価、稼働日、必要な人や時間などが該当します。出力とは、それらを組み合わせた結果として現れる売上、費用、利益、必要能力などです。
大切なのは、表の一つひとつのセルを入力か出力かに機械的に分類することではありません。「この数字はどこから来たのか」「誰が変えられるのか」「何を判断するために見るのか」を確認することです。計算途中の数字も含め、その役割を言葉で説明できる状態をつくります。
分からない項目は、弱点ではなく質問になる
表の中に意味を説明できない項目があった時、知識不足を隠してはいけません。そこは、事業を理解するための質問の入口です。誰がこの前提を決めたのか。実績なのか予測なのか。どの仕事がこの数字を生んでいるのか。変動した時、顧客や現場に何が起きるのか。
分からない項目を洗い出すと、経理、営業、現場など、異なる部門が使っている言葉の違いも見えてきます。数字を尋ねることは、担当者を追及することではありません。組織が同じ事業を、同じ構造で見られるようにする作業です。
前提を動かすと、事業の構造が見える
入力と出力を分けたら、前提を一つずつ変えて結果を見ます。顧客の数が変わる場合、単価が変わる場合、提供できる量が変わる場合。結果の振れ方を比べると、どの前提が大きな影響を持つのかが分かります。
ここで必要なのは、都合のよい数字を作ることではありません。楽観、標準、慎重という複数の条件を置き、どこまでなら耐えられるか、何を早めに確認すべきかを考えます。シミュレーションは未来を言い当てる道具ではなく、判断の前提とリスクを見えるようにする道具です。
部長は、数字を共通言語へ変える
数字が一部の詳しい人だけのものになると、現場は目標を自分の仕事へ結びつけられません。一方、数字だけを現場へ下ろしても、行動は変わりません。部長は、事業の数字を日々の仕事へ翻訳し、現場で起きた変化を再び数字へ戻します。
そのためには、完成した表を見せるだけでなく、どの入力がどの出力につながるかを一緒に確かめます。Excelは答えを保管する箱ではありません。異なる立場の人が前提を開き、同じ事業について話すための共通言語になり得ます。
最初の一歩
身近な業務表を一つ開き、変えられる前提、計算途中の数字、最終的に判断したい結果を三つに分けてください。次に、意味を説明できない項目へ印を付け、作成者へ「この数字はどこから来て、何を判断するために使いますか」と尋ねます。関数を追加する前に、表の中にある事業の構造を言葉にすることから始めましょう。
編集注:本稿は、2020年に作成した事業数字の理解を支援する講義メモをもとに、受講者、支援先、実データ、第三者教材を特定・転載せず、2026年の東京部長倶楽部の考え方に沿って一般的な管理職の実践知として再構成したものです。

