8年かけた博士論文は、遠回りだったのか――計画が崩れた後に残るもの

8年かけた博士論文は、遠回りだったのか――計画が崩れた後に残るもの

東京部長倶楽部の山木のぼるです。

 私は会社員として働きながら研究を続け、博士論文をまとめるまでに8年をかけました。国内外の論文を積み上げ、約200ページの学位論文にまとめ、ようやく提出までたどり着きました。ところが、その約3か月後、指導してくださった先生が病気で亡くなりました。論文を書き上げても、学位取得の手続きを進める道が途切れかねない状況でした。

「8年かけたのに無駄になった」と考えても不思議ではなかった

 長い時間を使った仕事ほど、予定していた出口が閉じた時の落胆は大きくなります。担当役員が替わってプロジェクトが中止になる、顧客方針が変わって提案が採用されない、組織再編で積み上げた仕組みが使われなくなる。会社でも同じことが起こります。

 この時、「これまでの努力を無駄にしたくない」という気持ちだけで同じ道に固執するのも、「運が悪かった」とすべてを捨てるのも、よい判断ではありません。見るべきなのは、当初の計画が残っているかではなく、次の選択に使える何が残っているかです。

論文だけでなく、蓄積と関係が残っていた

 私には、研究結果、論文、追加検証できる知識、長年の研究を通じて築いた人との関係が残っていました。別の先生が新たな大学へつないでくださり、内容の補強や数値実験を重ねることで、最終的に別の道から学位取得へ進むことができました。

 これは偶然の幸運だけではありません。助けてくださる人が現れた時、受け取ってもらえる研究成果があり、修正に応じられる能力があり、相談できる関係が残っていたからです。計画は崩れても、それまでに築いたものが次の道を開きました。

遠回りを美化する必要はない

 苦労は多いほどよい、諦めなければ必ず報われる、という話ではありません。続ける意味がない仕事を、過去に時間を使ったという理由だけで延命してはいけません。一方で、当初の出口が閉じたことと、それまでの蓄積に価値がないことは同じではありません。

 部長が行うべきことは、目標、現在地、失われた条件、残っている資産を分けて見ることです。目的自体は今も重要なのか。成果物は別の用途に使えないか。身についた能力は次の課題に転用できないか。協力関係は残っているか。別の到達経路はないか。ここまで整理して、継続、転換、停止を判断します。

個人の経験を、組織の資産に変える

 一つのプロジェクトが終わる時、資料を保存するだけでは組織の学びになりません。どの前提が崩れたのか、どこまで検証できたのか、次に使える知見は何か、誰との関係を残すべきかを整理します。AIは大量の記録から論点や再利用できる知見を抽出する支援に使えます。しかし、何を残し、どの目的へつなぐかを決めるのは人です。

 遠回りだったかどうかは、使った年数だけでは決まりません。そこで得たものを次の選択へつなげられた時、遠回りは別の道へ変わります。

最初の一歩

 止まりかけている仕事を一つ選び、「残っている成果物」「身についた能力」「協力してくれる人」「別の到達経路」を書き出してください。失った計画ではなく、今も使える資産から次の一手を考えてみましょう。

編集注:山木の実体験をもとに、公開記事として研究分野や関係者を特定しない表現へ一部整理しています。

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