東京部長倶楽部の山木のぼるです。
交渉がうまくいかなかったとき、最初に出てくるのは「相手が理解してくれなかった」「説明の仕方が悪かった」という反省かもしれません。しかし、そこで終わると、次の案件でも同じつまずきを繰り返します。
今回は、ある会社員の方が交渉の失敗をチームへ持ち帰り、個人の反省ではなく、組織の学習へ変えようとした事例をご紹介します。
契約という目的に立ち戻る
その方のチームは、新しい提案を顧客へ持ち込みましたが、交渉は思うように進みませんでした。そこで本人は、単に「提案内容が弱かった」と片づけず、そもそもの目的に戻りました。
目的は、説明会を開くことでも、相手から好意的な反応を得ることでもありません。必要な意思決定を得て、契約へ進むことです。この目的から逆算すると、「私たちは本当に意思決定へ影響を与えられる人と話していたのか」という問いが生まれました。
失敗を隠さず、チームの問いに変える
本人は、交渉がうまくいかなかったことをチーム会議で共有しました。そして、「本当にこの人がキーパーソンだったのか」「誰へ、どのような価値を届ける必要があったのか」「上位の意思決定者へ働きかけるには、誰の協力が必要だったのか」と問いかけました。
すると、個人の説明技術を反省するだけでは出てこなかった議論が始まりました。提案へ関心を示す人と、予算や導入を決める人は同じとは限りません。決定者が賛成しても、実行に影響する部署が反対すれば進みません。逆に、権限が小さくても、社内で強い信頼を持つ人が流れを変えることもあります。
失敗を責任追及の材料にせず、判断の前提を見直す問いへ変えたことで、チーム全体が顧客組織の見方を深めることができました。
「誰に売るか」を役職名だけで決めない
重要なのは、肩書の高い人だけを探すことではありません。関係者ごとに、決定へ与える影響力、提案への関心、期待している価値、懸念、社内手続き上の役割を整理します。
さらに、誰がその人へ働きかけるのか、何を伝えるのか、どの順番で合意をつくるのかを決めます。ステークホルダー分析は、名前を表に並べる作業ではなく、意思決定が進む条件を設計する仕事です。
一度の気づきを、次にも使える仕組みへ
今回の話で特に大切なのは、「次は気をつけよう」で終わらせなかったことです。今後の案件でも関係者を確認できるよう、分析項目をテンプレートや案件検討の手順へ組み込む方向まで話を進めました。
個人の記憶と注意力だけに頼れば、担当者が変わるたびに学びが消えます。案件の初期に、目的、意思決定者、影響者、反対要因、提供価値を確認する。節目ごとに前提が変わっていないかを見直す。ここまで仕組みにして初めて、失敗から得た知恵が組織の能力になります。
失敗を共有できる空気も、部長がつくる
部下が失敗を隠す組織では、学びは遅れます。部長が最初に問うべきは、「誰が悪かったのか」ではなく、「どの前提が違っていたのか」「次の案件で何を変えるのか」です。
ただし、失敗を肯定することと、結果への責任を曖昧にすることは違います。事実を直視し、行動を振り返り、再発を防ぐ仕組みまで作る。その厳しさがあるからこそ、安心して失敗を語れる組織になります。
最初の一歩
最近、失注した、停滞した、合意が得られなかった案件を一つ選んでください。「本来の目的」「最終決定者」「影響を与える人」「相手が求める価値」「見落としていた前提」を一枚に書き出し、チームで確認します。
反省会で終わらせず、次の案件の最初に必ず使う確認項目を一つ決めることが、個人の経験を組織の学習へ変える第一歩です。
編集注:本記事は2020年12月に行われた個別セッションの記録をもとに、本人、勤務先、顧客、提案内容を特定できないよう匿名化・再構成しています。交渉後の契約成立や、その後の案件成果を示すものではありません。

